未払残業代を請求された事業者様

1 残業代未払いによるトラブル

未払残業代を請求された事業者様

従業員の労働時間を管理せず、発生した残業代(割増賃金)を支払わない場合には、賃金全額払いの原則等の違反として、労働基準監督署から是正勧告をされたり、悪質な場合には送検されたりすることもあります。

特に近時は、労働基準監督署の監督が強化されていることから、企業に立入調査がなされ、賃金未払に対する是正勧告等が出されるケースが増えています。

したがって、企業側としては、従業員の労働時間を管理し、残業代が未払とならないよう、適切に対処する必要があります。

2 残業代未払問題の本質

一般的に、残業代とは、基準外賃金、すなわち、時間外勤務手当、深夜勤務手当、休日勤務手当等の割増賃金を指していることが多いといえます。

ここでは、実務上よく問題になる割増賃金について説明します。

⑴ 割増賃金とは

「割増賃金」とは、労働基準法が定める1日8時間または1週40時間を超えて労働させた場合(時間外労働)、1週1日または4週4日の休日に労働させた場合(休日労働)、午後10時から午前5時までの深夜に労働させた場合(深夜労働)に、その時間外勤務等の対価として所定内賃金に割増して支払われる賃金のことをいいます。

また、割増賃金は、労働基準法が定める法定労働時間を超えたときに発生するものですので、就業規則や雇用契約書に定められた所定労働時間(勤務時間)を超えただけで直ちに発生するものではありません。

たとえば、所定労働時間が1日7時間の従業員が、8時間を働いた場合、1時間ほど所定労働時間を超えて勤務したことになりますが、法定労働時間である1日8時間を超えていないので割増賃金を支払う必要はなく、その1時間分の勤務に対しては、割増をしない通常の1時間分の賃金を支払うことで足ります。

⑵ 割増率

法律で定められた法外時間外労働・休日労働・深夜労働をした場合は、以下のとおり割増賃金を払わなければなりません。

① 時間外労働(労働基準法37条)

1か月の合計が60時間までの時間外労働の割増率は2割5分以上(労働基準法37条1項本文)、1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合の60時間を超える部分の割増率は5割以上の率とされています(労働基準法37条1項ただし書)。
この1か月に60時間を超える場合の5割以上の割増率については、現在、中小企業への適用が猶予されていますが(労働基準法138条)、2023年4月1日から適用猶予措置は廃止されることになりましたので、同条削除後は、すべての企業に上記割増率が適用されます。
以上のほか、1か月45時間、1年360時間を超える労働時間に関しては、36協定で2割5分を超える割増率を定めることが努力義務とされています(労働基準法36条、告示323号5条3項)。

② 休日労働(労働基準法37条1項、同2項)

1週1日又は4週4日の法定休日の労働に対する割増率は、3割5分以上とされています。

③ 深夜労働(労働基準法37条4項)

午後10時から午前5時までの間の深夜労働に対する割増率は、2割5分以上とされています。上記①の時間外労働の割増率とは別の規制になりますので、仮に、1日8時間または1週40時間を超えており、かつ、深夜労働にも該当する労働時間については、2つの割増率が合算して適用されますので、5割以上の割増率となります。

3 従業員本人から残業代を請求された場合

従業員本人から、残業代を請求されることがあります。最近では、退職した従業員が、過去の勤務を振り返って、勤務時間を計算し、会社に対し、時間外労働分の賃金を請求することが多々あります。

従業員から請求を受けても、これを軽く扱う経営者の方がいらっしゃいますが、軽く扱ってはいけません。

たしかに、従業員本人の請求は、荒削りで、計算が誤っているケースが多いですが、実際には、残業代が発生しており未払となっているケースの方が多いといえます。

したがって、その請求が正当かどうかをしっかり精査する必要があります。

請求を受けた段階で、迅速かつ適切に対応しなければ、紛争リスクがどんどん大きくなるだけでなく、遅延損害金が加算され、将来、支払わなければならない金額が増えていく可能性もあります。

従業員から残業代の請求を受けた場合には、できる限り速やかに、弁護士に相談してください。

4 従業員の代理人弁護士から残業代を請求された場合

従業員に代理人弁護士が付いており、その弁護士から残業代の請求を受けた場合には、至急対応をとる必要があります。

多くの場合、その弁護士はあらかじめ従業員から詳しく事情を聴き取りしており、ある程度の金額の請求が可能であると見込んでいますので、会社側としては、従業員側からの請求を軽んじることなく、慎重かつ誠実に対応していく必要があります。

他方で、弁護士の請求が全て正確であるとは限りません。

多くの場合、概算の計算であり、ときに過大請求であるケースも見受けられますので、会社側としては、タイムカードなどの労働時間を把握できる資料に基づいて、正確に労働時間を計算し、残業代の有無及び金額を算出の上、従業員側弁護士との交渉に臨む必要があります。

5 従業員本人や代理人弁護士から残業代の請求を受けた場合は、すぐに弁護士へ!

以上のとおり、従業員本人やその代理人弁護士から残業代を請求された場合、会社として法的リスクを負っており、場合によっては、多額の金銭負担をしなければならない状態です。

したがって、従業員側の残業代請求を受けた場合には、できる限り早めに、弁護士に相談しましょう。また、同じことが起こらないよう、就業規則、賃金規程等を見直したり、タイムカード等を通じて正しく労働時間を管理し得る体制を構築したりすることも大切です。

トラブル予防についても、弁護士のフォローを随時受けながら、適切な方法を講じていくことがとても大切です。

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